第37回「呑喜」@大阪萱島

一目惚れした。その出で立ち、その香り、その温もり…。初秋のとある夕刻。出会った瞬間、恋に落ちた酒場、「呑喜」。
御神木が突き抜ける駅のホームが有名な萱島。高架下が出来て以来約30年、朝から晩まで酔客で賑わう地域密着型、酒屋経営の立ち飲み。元々ふたつの酒屋が共同でスタートされたそうな。先代に続き店長の任務を任せられたのは、開店から5年ほど、当時18歳でバイトに入った祐子さん。現在、女性パートさんでまかなわれる全スタッフを最年少の彼女が仕切る、すなわち、この酒場の主なのだ。いやはや、アッパレ。
古き良き味わいを保ちつつ清潔で明るい店内は、夕方の早い時間にしてほぼ満席。カウンター両隣さんに場所を空けていただき大瓶で乾杯。スパゲティサラダとどてをつつく。大阪人のソウルフードであるどては、売り切れるとご丁寧に「どては●曜日までありません」と記される人気ぶり。仕込みが追いつかなければ胃袋におさめられへん。白味噌仕立に大ぶりのスジ肉がこりくにゅっ。少し時間が経つだけで表面にピチッと膜を張るコラーゲンたっぷり感とあらば、御仁方の肌ツヤが良いのにも頷ける。私も負けんとモリモリいただこ。単に”シチュー”とボードに記されたそれは白か黒か?登場するまで妄想を膨らませつつ、温かな湯気を立て我が元にやってきたのは白!この雰囲気には白やで!せやろ!誰に何処にとなくドヤ顔を晒しながら口に含むと、期待を裏切らぬ、いや、期待を上回る優しさ愛情たっぷり。薄らこみ上げる涙とともに飲み込むと、胸元がクーッと熱くなった。
必食やで!と言わしめる、日によって具材が変わるかき揚げは、この日は玉ねぎ。手の平ほどもあるボリューム。揚げ立て熱々サックサクに玉ねぎの甘みがぐいぐい押し寄せる。天つゆも添えて120円は、もう涙こらえ切れませんわ。地元の魚屋さんから仕入れる、厚切りで美しい紅のまぐろ造りは、大阪ではあまりお目にかかれぬ三重県の地酒「作」とともに。米の旨みがしっかりしつつ、食を邪魔しないスッキリとした飲み心地が何とも。珍味も追加し究極の晩酌セット、一丁あがり!
隣あった長年通うという陽気なお父さん。「ワシなんてまだまだや、開店当時から来とる人もわんさかおるで!」。仰せの通り。笑顔のスタッフさんと笑顔の酔客。驚くほど安くて旨くて温かい酒肴の数々に、酒好き皆が惹かれるのも至極当然。かく言う私も然り。ビジュアルに惹かれ内面に惚れ、その温もりに涙し…。私もう、「呑喜」にゾッコンですわ!

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