第56回「讃眞」@大阪東天下茶屋

「自分が好きそうなん見っけたで!」。飲み友達が、私好みの酒場を見つけたと連絡をくれ、いそいそと向かうは東天下茶屋。大通りから反れた路地に佇む「讃眞」。讃岐出身のご主人・眞鍋さんによる焼鳥酒場だ。年季の入った看板が夕日に照らされ哀愁を帯びている。昭和喫茶風の佇まいに赤提灯と赤暖簾の異色な組み合わせに魅せられ、入った店内に心奪われる。外観同様、昭和の香りムンムン。後に、喫茶店を独自に改装アレンジされたと分かる。やはり。小さな調理場を囲う8席ほどのカウンターとテーブル1卓。このサイズ感がちょうどや。そのテーブルをよく見ると、昔の麻雀台に穴空きの台が乗る手作り品。椅子も畳張りになっている。ステキやんか。
「オジャマします」。腰をおろすと、作務衣姿のご主人が仕込みの手を休め、「いらっしゃい」とおしぼりを差し出して下さる。生ビールくださーい。喉を潤しつつ目を向けたメニュー札もえぇ味出してる。パソコンフォントと手書きがミックスされたような字体。これも手作りだそう。
まずはお造りやな。ずりときもを所望。鮮やかな紅色がキラキラと輝いている。プリッとろ~り濃厚なきもに、ずりは銀皮も添えられる。シャリショリとした歯触りが心地良い。
メインの焼き。鶏の様々な部位と野菜が皿から溢れんばかりに盛り込まれる。そう、こちらではセルフ焼鳥を楽しめるのだ。最近でこそセルフ焼きの店が見られるも、20数年前に既に始められていたとは。手羽、肝、なんこつ、皮、つくね…。『何種類くらい入ってるんですか?』、『てきとーや!』と、ご主人。そもそも、串に刺す作業が面倒て、このスタイルを始められたて。その適当さ加減もツボや。年季の入った七輪に好みの部位を乗せ、好みの加減に焼き上げる。終始見守る牛焼肉と違い、焼きに若干時間がかかる鶏焼きは、ゆるり楽しめるのも良い。焼きの手間もえぇアテになんねん。三重県産のオスにこだわった地鶏、旨い!
壁に隠れるように掲げられるメニューから、肉のたたき。脂身無しのあっさりながら噛むほどに旨味が溢れ出す。まさに隠れメニューやね。〆はもちろん、讃岐出身のご主人による自家製うどん。艶やかでしなやかなおうどんに生唾ゴックン。若干細めのそれを数本たぐい、まずは何もつけずに。一瞬ふわっとして噛むとムチモチッとした特有の弾力。旨い!
このお店、実は壁を隔てた向こう側とも繋がっていて、さらに2F席は屋台風なのだとか。どこまでも私を魅了する酒場。ほんま、えぇとこ教えてもうたわ。

第55回「串焼き もつ煮 豚足 乃ノ家」@大阪大正

春の夜風になびく暖簾に誘われ今宵も一献。
駅前から伸びる路地角に佇む「乃ノ家」。大正界隈でブイブイ言わせている酒場グループの次なるスタイルは、モツ焼き。牛文化の関西・大阪において、ここ何年かでそこそこ「やきとん」が定着してきたものの、それらは「関西風」、というイメージを抱いている。それはそれとて旨いんやけど。大阪酒場に誇りを持ちつつ、東京下町酒場に勝たれへんのが豚文化。ここ「乃ノ家」では、その関東風を取り入れたモツをいただけるのだ。
V字カウンターに立ちまずは乾杯。平日の17時から19時までビール200円というサービスはありがたい。関東下町酒の代表格ホッピーは例に倣い“3冷”で供される。寒さが遠のき、ギンギンに冷えた酒が旨くなってきた。
モウモウと湯気をあげ供される白モツ豆腐。そうそう、これこれ。こーゆうのん、関西ではあんまり見かけへんねん。東の豚モツ煮、西の牛スジ煮込み、ゆうんが私の見解。どやろか?ほわふわくにゅんっとやらかいモツ、その旨味がしゅんだお豆腐、お出汁。旨いねぇ。モツにはやっぱりキンミヤ梅割りやね。言うて、実はまだこの美味しさを理解できず、ただただ、モツと梅割りを楽しむ自分に酔うてる、ゆうんが正直なところ。せやけど今日は妙に美味しく感じるわ。ひんやり口当たりにほどよい甘みでスイスイ~っと入ってく。胸元がクッと熱くなる。あぁ、コレあかんヤツ。どこぞでは「3杯まで!」いう決まりがあるんも納得。豚の刺身も関西ではまだまだ少ないんやわ、数種ある中からガツシン。シャクシャクッと歯ごたえが心地よく、貝食べてるみたいやん。生姜醤油でさっぱりと、韓国酢味噌も良し。えぇ頃合いでやきとんがあがった。一瞬ふわっとして胸腺噛んでる!みたいな食感が顎に伝わるミルキーなチチカブ、脂とタレの甘みが溶け合うテッチャン、歯ごたえとジューシィさのコメカミ。串もんは一皿二串やけど、色々食べたい人やおひとり様に嬉しい盛り合せは、お好みチョイスでもおまかせでもどうぞ。焼酎に唐辛子と大葉を浮かべた金魚。初めて出会ったんも東京のもつ焼き屋やったなぁ。これ好き。箸休めにさっぱり浅漬けとザーサイをつまみつつ、隣さんが食べてるんに釣られ、バラ軟骨もろとこ。とろっほろほどける軟骨に、半熟卵。たまらんビジュアルにたまらん旨さ。この甘辛にキツイ酒がよぉ合うね。ふわっとしてきたわ。ほんまに酔うたんか、自分に酔うてるんか。この後、スマホを紛失するとも知らず、えぇ気分で店を後にしたのでした。

第54回「立呑み木村屋」@大阪弁天町

老いも若きも男も女もみんなゴッチャになって楽しめる酒場、理想的。家族経営で3代続く「立呑み木村屋」。昭和漂う雰囲気から一転、約3年前の改装により、若者女子も気兼ねなく立ち寄れる酒場へと生まれ変わった。どこぞアメリカ西海岸沿いのカフェ&パブにでも来たような気分(よぉ知らんけど)。それもそのはず、サーフィン好きの現店主とその仲間により造られた空間なのだ。立呑みと称し、スツールも完備。“立呑み”なら立呑みたい!私としては少々残念に思いつつ、椅子を取っ払ってしまえば良い!というフリースタイルはありがたい。
乾杯の生しょうが酎ハイは、高知の黄金生姜にこだわり、注文後にすりおろされる。その香り高さと爽やかさ、酵素パワーで食欲酒欲全開!角打ちなれど、料理のラインナップも侮れへん。お母さん妹さんの作るあったかいのんと、店主の考えるヤングもんのMIXが楽しめるのだ。かつてのお店から味を引き継ぐ関東煮は、昆布と鶏ガラの旨味凝縮タイプ。毎朝こしらえる出汁と日々の濾した出汁を合わせることで、常に同じ味を提供される。所望した二品、味わいが異なるゆえの別皿サーブとは、細かな配慮にうるるん。シャキッと感が残る菊菜に、初訪問でひと口惚れしたねぎ袋は、ぷっくりふくれあがる揚げさんの中からどっさりねぎが飛び出す。生姜も効き胃袋も心もポッカポカ。外国人客さんもお気に召されるイチオシのトマトチーズはバゲットとともに。原型を成さぬクタクタのトマトにとろ~りチーズ。旨いに決まってるやん!の想像を超える旨さとやさしさ。「トマトも入れてぇや~」の常連さんのひと言から生まれ、改良を重ね今に至る逸品。生バジルの酎ハイが合う。一番人気の蒸し豚キムチ。日々旨いもんを探求し続け出来合いもんにも抜かり無し。韓国もんなら鶴橋ちゃう?なキムチは、布施からの調達。旨辛酸味が絶妙なそれに、とろける蒸し豚のコンビ、間違いなし。季節を取り入れた若ゴボウやブリ大根はお母さんお手製。普段、家で出され何とな~く食べてるもんを他所でいただくと、そのあったかみが染み入るわ。
古きから新しきに変貌を遂げ、以前のお客さんが来られなくなったのでは?…最初はビックリしてたけど、2度目からは「やっぱ変わらんわ!」という常連さんご健在。長年愛されるお店ゆうんは、見た目こそ変われど、空気や居心地は変わらんのやろね。それに加え、人が人を呼び新規も次々に舞い込む。世代を超えた酒好きが、ただそのひと時を楽しみに足を運ぶ。理想の酒場や。

第53回「お立ち呑み処 花・華」@大阪本町

東西を貫き卸問屋や小売店が並ぶ船場センタービルの地下飲食店街。「いらっしゃいませ~お帰りなさ~い」、常連・一見の分け隔てなく、元気に迎えてくれる「花・華」。この店名にして、鮮やかなオレンジのTシャツを着た女性スタッフさんたちがカウンター内に並ぶ光景は、ガールズバーを連想させなくもないが、至って健全な立ち飲みだ。オープンして丸14年。開店当時、まだ暗いイメージの強かった立ち飲みを、もっと気軽に寄れる明るいイメージにしたいという思いから、この店名にされたそう。
大瓶を呷りメニューに見入る。定番約50種類に加え、日替わりは30種類ほども揃うアテは、『毎日来ても飽きないように』と、開店当初から2日間続けて同じ料理を出したことがないそう。いやいや、80種類もあったらそない簡単に飽きひんで…と思うけど、これが客へのおもいやり、おもてなしの心やね。
まずは名物湯豆腐。絹ごし豆腐にとろろ昆布とネギ、ほうれん草でおめかし。寒い冬も暑い夏も、思わず「っあ~」とこぼれてまう。飲食業界30年の、やわらかな笑顔と穏やかな口調の男性オーナーさん自ら、中央市場や黒門市場に毎日仕入れに行く鮮魚メニューも人気。この日の刺身盛り合わせは、本まぐろ、活ハマチ、芽ねぎが添えられる活平目。どれも分厚っ!おひとり様にも嬉しい量と価格がありがたいねん。立ち飲みでアワビのお造り!?あるんです。ひと切れを噛むと、磯の香りが広がりコリッコリッと音が響く。ん~っ♥貝柱と湯引きされた肝付きでこの価格、おおきに。関西の冬言うたらかす汁。『具沢山』の如く、大根、人参、ネギ、蒟蒻、揚げさん、ちくわ、豚…ほじくる度に色んなん出てきて、ひと口ごとに違った味わい。もったり濃い目の汁加減でなかなか冷めへん。「熱っ熱っ」言いながらすするんが幸せや。このかす汁を目当てに来るお客さんも多いとは、納得。ハイカラなネーミングも心くすぐるドイツセットにはフォアローゼスをハイボールで。豊富な料理に合わせるお酒も充実ゆえ、何と何を合わせよか考える楽しさも与えてくれる。シメはしゃきしゃきキャベツにふんわり生地、たっぷりソース&マヨでこってり濃い味のキャベツ焼き。何や言うても大阪人は粉もん好っきゃねん。帰りしなには女性のみ、シューアイスのサービスやて!あぁ、女子でよかった。スタッフさんと客の笑顔の花が咲き、よりどりみどり華のある料理がいただける立ち飲み酒場。お腹も心も満たされ且つ、フトコロもあったかいって、最高やん。

第52回「鳥しき ひろせ」@大阪福島

焼き鳥屋激戦区にまた新たなお店が出現。「鳥しき ひろせ」。様々な飲み屋が軒を連ねる一角、ガード下という立地がまず私を誘う。ビニシーで覆われたシンプルスタイリッシュな空間に響く客の笑い声、ガタンゴトンと体にも伝わる電車の通過音が心地良い。それに加え、私の中高生時代の懐メロが泣かせる。
ミキサーにかけたフローズンレモンたっぷり、皮の苦味がフレッシュなレモンサワーで乾杯。ほどなくして供されるお通し。個人的にお通しいうもんは好かんのやけど、こちらは湯豆腐ときた。ポン酢でも醤油でもなく、岩塩と一味でいただく粋さ。寒い季節、ぬくい店に飛び込み、泡でシュッと喉を潤してからのあったか豆腐、たまらんね。しかもおかわりOK!涙ちょちょぎれてまうわ。
ひと息つき最初に頂きたいのが地鶏刺し。お店こだわりの『おおいた冠地鶏』をまずはストレートに味わう。サクッとズリ、プリップリのココロ、とろけるキモ…どれもビジュアル通りの見事な鮮度。モモとムネは、90日間飼育される通常の鶏と、特別に130日間飼育され、より身が締まり味の濃いのんを食べ比べができる。このクオリティとボリュームで650円はお見事。鮮度が命、食べる時間が砂時計で計られるゆえ早う平らげてな。皿盛り大きな切り身のももねぎはハサミでカットしてどうぞ。ブリッブリ肉厚な皮に、弾力があり噛むほどに肉汁溢れる身。もはやステーキの領域や!目の前で点てていただける香り高い抹茶ハイでサラリと脂を流した。この組み合わせ、新和食の誕生やろか?
焼きもんの合間やおつまみにぴったりなかっぱからしは、鼻に辛味がツーンと突き抜ける!それを出汁の効いたとろろが程よく中和してくれる。にしても辛い!せやけど旨い!やみつきやわ!この他、甘いピーマンや、子持ち昆布の入ったサラダなど、サイドメニューにも小技がキラリ。さっくさくジューシィな熟成唐揚げ、韓国海苔を合わせた塩なんこつ、鶏皮を北京ダックスタイルで食べるとりみそカオヤーピンなど、何を食べても鳥本来の美味しさはもちろん、いかにして旨い鳥を旨く食べてもらえるかが計算され尽くしている。それもそのはず、店名の「鳥しき」は、旨い鳥の提供スタイル「式」と、季節の美味しい野菜や食材を提供する「四季」をかけているのだから。今はなき名店の味を再現した、雉の旨味凝縮の神田食堂きじそばをズズッと流し込んで〆。
昨年秋にオープンしたばかり。この冬を越え、春、夏、秋、また来る冬…季節の楽しみがまたひとつ増えたわ。

第51回「青や」@大阪鶴橋

サバ、イワシ、サンマ…。青魚、好っきゃね~♥
「がっつり肉行こか!」は、ようあるけど、「がっつり青魚行こか!」は、ないよね。生活習慣病の予防・改善効果に加え、うちら飲兵衛にも嬉しい動脈硬化予防もあるっちゅう、近年人気の青魚を堪能できるお店が、焼肉激戦区に構える「青や」。日頃の酒浸りを反省しつつ、今宵は青魚で乾杯しましょ。
魚には日本酒やけど、駆けつけ一杯にフリージングレモンサワー。凍らせたスライスレモンがそびえ立つビジュアルはSNS映え必至。倒さんよう中に沈めてお箸で崩してな。適度に潰しフレッシュ感を味わってからの、ジャリジョリ潰してフローズンな食感を味わうんがオススメ。酒部分がなくなったら、ナカのお代わりをどうぞ。結局、3杯ほど楽しませてもうた。
青魚スタートに青やのなめろう。他所で見るなめろうに比べて色白やなぁ。それもそのはず、脂の乗った青魚各種をブレンドされているそう。お箸の先でちょびっと掬い口に含むと、細かく叩かれた身の食感に、舌の上で脂がじんわり溶けてくわ。これは日本酒いっとかな。辛口好みの私にチョイスいただいた奈良県のみむろ杉で脂をシュッと流す。合うわ~ナンボでもいけるわ~。高知県産の清水さばにこだわったさば造り。この光り具合、たまらんね!青魚特有の濃い味わいながら臭みは一切なし。これやったら青魚苦手な人もいけるんちゃう?北海道産ニシンの造りは入荷時のみの限定。酒肴の代表格、数の子や、蕎麦のトッピングにもなるあのニシンが生でいただけるとは!コリリとした食感を残しつつやわらかで、ぴとっと舌になじむエロティックさ。恍惚。定番サバの味噌煮は、胴体と尾部分のぶつ切りがドドンとボリューム満点。ほろりと崩れる身に、腹身のとろけるやらかさ。名称通り骨まで食べられる絶品。塩気強めゆえ、身ぃ食べ終わっても味噌をアテに飲めるんもえぇね。酒飲み好みの味噌煮ですわ。鯖料理で忘れたらあかんさばの棒寿司。その肉厚たるや!ひと口でパクッ。笑みを浮かべしばし無言で噛み締め、広がる旨味の余韻に浸った。ラストは青やのサンドイッチ。軽くトーストされたパンにさっくりイワシフライ、こってりマヨソース。まさかイワシもパンに挟まれるなんて思わんかったやろね。見事な出会い。棒寿司もこのサンドも、先の味噌煮の味噌つけても美味しいねん。試してみてな。
美味しくて健康に良い、且つ酒に合う青魚って素晴らしいね。何や元気出てきた。早速DHA効果やろか?しばらくえぇ酒飲めそやな~

第50回「さかとけ」@大阪天王寺

「酒解」と書いて「さかとけ」と読む。この文字を初めて見た時、意味が分からぬまま、ただただ、何てステキな響きだろうと思った。後に、初めてお酒を造り神々に献じた、酒造の祖神『酒解神(さけとけのかみ)』からとった言葉だと知る。  天下茶屋「酒解」の姉妹店として9月にオープンした、昼から飲める「さかとけ」。漢字だと意味を推し量ることができる反面、少々かしこまったイメージも与える。白い目で見られがちな昼酒をもっと気兼ねなく楽しんでほしいという理由からひらがな表記にされたのだとか。なるほど、深く納得し共感を覚えた。  このお店を気に入ったもうひとつの理由は、そのクオリティーと安さ。元々魚屋を営むオーナーさんが、奥様の故郷である石川県の食材に惚れ込んだ。しかし、造り手が高齢者であるため、地物のほとんどは現地で消費されてしまう。もっと多くの人に味わって石川の素晴らしさを知ってほしい。造り手に恩返しをしたい。そんな想いから、石川の名産を酒場で出されるようになり、「さかとけ」では能登の豚や牛、地酒を楽しめる。  終日1杯190円のハイボールあおりつつ、「あれ」を所望。あれって何や? 思わずツッコミ入れてまう謎のメニューは日替わりで、この日はフライもん。店長の姉さんに「何フライですか?」と聞くも「何やろ?」と素っ気ない返し。注文してもこちらに顔を向けず「あいよ~」と、どこか違和感を覚える対応(笑い)。それもそのはず、彼女のキャラは「敬語があまり使えません・自由自在に攻める」。頭上に記される各スタッフさんのキャラ表で納得した。各人の個性を尊重し客の笑いもとる。おもろいやん。  オススメの能登豚。独特の食感に脂身が甘いちれ、噛むほどにミルキーな味わいのほほ。豚好きの私も惚れた。魚介類も超絶の安旨さ。脂ノリノリとろけるとろいわしの刺身。骨付きまぐろの中落ちは、残る身をほじくる作業も楽しい。魚介には日本酒をと、秋らしいラベルで選んだんは石川モノちゃうかった、失礼しやした…。  ゲームのように、旅人にはじまり遊び人、勇者から、さらに無限大まで辛さレベルを選べる麻婆豆腐。どんだけの辛さかビビって〝賢者〟にとどめるも、なかなかのツワモノや。酒にも飯にもピタリゆえ、ガッツリいきたい方は白米やおにぎりをどうぞ。そう、ここは酒場ながら「しっかり食事も楽しめる」立ち飲みなのだ。  うっかり石川の地酒を飲みそびれてしまった後悔から、この冬は石川まで足を運んでみよかな。そんな想いさえ湧いてきた。

第49回「新多聞酒蔵」@大阪天満

週末の昼酒タイムを終え、さてもう一軒、と歩いていたら懐かしい店に辿り着いた。眩しい看板、紺地に白抜き暖簾。酒場然とした姿、変わらへんなぁ…。いや、何かちゃう。昔から知る店名の頭に「新」の文字が増えている。「新多聞酒蔵」。この9月からオーナー交代により新体制が組まれたそう。カウンターが奥へと伸びる店内はグッと明るくなり、ご夫婦と奥様のお母さん、時には高校生の娘さんが笑顔で迎えて下さるアットホームな雰囲気に変わった。「新」はそれだけやない。女性陣の作る家庭料理に加え、マレーシア出身のご主人”はんちゃん”による多国籍料理が楽しめるんやて!夏にマレーシアを旅行したばかりの私、この出会いは酒の神様の思し召しやろか。
ほな早速、東南アジアで人気のタイガービール片手に、”はんちゃん”のお料理いただきましょ。アジアの定番料理、空芯菜炒めは、シンプルゆえに炒めの手際の良さが要になる。ウマイ!一見、普通の唐揚げながら、食べるとふわっと香るシナモンがクセになるアジアン鳥唐揚げはビールとの相性抜群。マレーシア黒焼そばと称される福建麺(ホッケンミー)、これも好きやねん。見た目の黒さとは裏腹にコクと旨味の甘辛味。ソースが太麺に満遍なく絡み、思わず白飯を欲してまうねん。あちこちから注文が入る、おそらくお店一番人気の四川麻婆豆腐は、調理最中の刺激的な香りで咳き込むお客さん多数。笑いとともに我が元にやってきたそれをレンゲでたっぷり掬って頬張ると、なめらかな豆腐がトゥルンッと舌を滑り、まず旨味がやってくる。「辛めで!」とお願いするも、全然ヨユーやん。と思っていたら、徐々に汗がじんわり、毛穴が開いていくのが分かる。ウマイ!カライ!でもウマイ!勢いで食べ進め半分ほどして小休止。日本の味、おでんの玉子でホッと一息。東南アジアから日本に帰ってきたで。手軽にグルメ旅が出来てまうんやわ。〆飲みはハイボールと辛ピーナッツ。これもほんのおつまみにと頼んだら、汗再び。うぬ、侮れん。
家庭料理を求め、はたまたご主人の多国籍料理を求め、開店一ヶ月半にしてすでに常連がつく人気店。おじさまのオアシスだった以前とは一転、ヤングなカップルが「唐揚げ、マーボー、チャーハン!」というヤングな頼み方をしている向こうからは、御仁が「空芯菜とどて焼き!」なんてオツな注文をする世代の交錯もおもしろい。有名レストランのシェフも訪れるという本場の味を立ち飲みでお手軽に。あかん、えぇ店に出会ってしもたわ。

第48回「焼鳥 炭心」@大阪十三

あかん。めっちゃ旨い手羽先に出会うてしもた!
年々変わりゆく飲兵衛の街、十三。いつもの角打ちで軽く一杯引っ掛け、ふわっとした気分で店を出ると、見かけない店を見つけた。「焼鳥 炭心」。あぁ、また新しい店できたんや。今年の6月にオープンした立ち飲み焼鳥。居抜きで使用した店内は小じんまりとしていて、白い洞窟のようなスタイルがおもしろい。
常時、厳選した3種のみ並ぶ地酒から山形の米鶴と虎穴で乾杯。適度に冷やされキリリとした飲み口が、まだ暑さの残る初秋の宵に心地よい。おまかせで盛り合わせてもらったお造りの豪華さよ!コリッコリのズリ、まったり濃厚とろける肝、プリップリのココロ。マグロブツか?!と思わせる角切り肉厚もっちりムネ肉の旨さにはまいった。なかなかお目にかかれぬ生つくねまで立ち飲みでいただけるとは。アッパレ。醤油とごま油が用意されるけど、まずは塩でシンプルに。鶏の甘み旨みを最大限に感じられる。提供される鶏は、阿波尾鶏や丹波地鶏などをメインに、その日の良いものを仕入れるそう。天満の焼鳥店で修行された店主の目と腕に間違いあらへん。
最近お気に入りのトマトハイボールとトマトサワーで、気持ちも胃袋も肝臓もリフレッシュ。よりサッパリ系が好みならサワー、しっかり系ならハイボールがおすすめやで。
そしてお待ちかね。初めて出会って以来、ゾッコンラブの史上最強手羽先!お願いします!同じく産地にはこだわらず、「とにかく大っきいのん!」と鶏屋に発注。手に入れた大っきいのんを、独自の手法で丁寧に焼き上げる。初対面の太っちょなそのビジュアルにびっくり!二度見三度見してもた。「詰め物でもしてあるんですか?」「いえ、そのまんまですわ。」つやつやほっぺを光らせる店主の顔も忘れられへん。でっぷりメタボな手羽先ゆえ皮もしっかり肉厚で、パリッジュワッと甘ぁい脂が溢れ出す。パンッパンに膨れた中は肉身ぎっしりと思いきや、適度に空気を含み軽いから不思議やわ。これぞ焼きの秘技。
定番のネギマ、レアな肝、笹身など、串もんは全て塩焼きで食べさせるんも、鶏に自身があるからやね。もちろんタレ焼きもOKゆえお好みでどうぞ。何を食べても美味しく、洞窟内に「うまいわ~!」が響き渡った。
不定期で焼鳥全品100円セールも開催され、テイクアウトも可能。飲兵衛だけでなく、ファミリーや子供にもやさしい地元密着型。(私は地元っ子ちゃうけど)ここに出来てくれてありがとう。素晴らしい出会いをありがとう。

第47回「山和屋」@大阪梅田

初めて会ったその日は、顔も声も、空気感さえも忘れられなかった。いつまでもあの声が耳の奥に響き、残像が脳裏をかすめ、また会いたい気持ちにさせる。よし、会いに行こ!見に行こ!
今年5月オープンの「山和屋」。ピンクな店が点在するアーケード街の角っこで、朝から朝まで元気に営業!強烈な印象を与えあとを引く、何よりの名物が店長ゴリさん。厳つい体に大きくて重そうなお顔で階段を上り下り。息を切らせ汗を垂らしながら、若干引きつった笑顔でお客さんに話しかける。ちょっと落ち着いてからでえーやん!そう思いつつ、こちらにその笑顔が向けられると嬉しくなってしまう。毎度です~♪
ビールと超特急メニューのたたききゅうり、ポテトサラダでスタート。マヨ控え目あっさりポテサラは、常備される花椒入り自家製ラー油をかけてもまた美味しいねん。店長の次に名物の餃子は、ニンニクがガツンときいたスタミナ系ゆえ、あとにチューする予定がある方にはニンニクなしをオススメします。ビールを飲み干しハイボールを所望すると、「OK!チューハイな!」ん?どゆこと?聞き間違え?出てきたのは確かにチューハイ。「コレ美味しいから!飲んどいて!」。そんな強引さもキライちゃうよ。こちらのチューハイやハイボールは強炭酸使用で、いつまでも絶えぬシュワシュワがとても心地良い。うん、美味しいね!18時までなら何杯飲んでも100円ゆうんも涙ちょちょぎれもん。
メニューの入れ替わりが激しい中、最新名物、鶏半身揚げは、大きくカットしてもらいガブリ。湯気とともにスパイシーな香りが立ち上り、塊で揚げるからこその旨味、ジューシィさがギュギュッと溢れ出す。一片を食べ終えるまで手がとまらず夢中になってしまう。ニヤリと笑顔を向け、サッとおしぼりを出して下さる気遣いに美味しさが倍増する。何を食べても飲んでも”ゴリさんスパイス”が加わるのだ。何せ、店名は店長の名がつけられているのだから。
大好物がドッキングした豚角煮天ぷらは、甘辛とろっほろの角煮にサクパリッの衣のコントラストがたまらん。相当なカロリーが予想されるけど、ウマイもんはウマイねんからしゃーない。コッテリの後には、独特のシコシコ食感が楽しく、パクチーが爽やかな干し豆腐。そして〆はトムヤムクン。小さな土鍋に有頭海老でビジュアルもお味も本格派。辛さ控え目ゆえ、辛いもん好きさんは一味をどうぞ。
バリエ豊富な酒と肴の安旨さ然る事ながら、店長にハマッてしもた。また、見にゆきます。